山羊の沈黙

たくさん読んでたくさん書く生活を模索しています。

生涯を通じて学ぶということ

今度作る本のための取材で、とある研究者さんに、教育についてのお話をいろいろ聞いた。世界各国の取り組みについてや、学歴問題についてなどざっくばらんに。合計4時間半くらい、「学ぶ」ということについて聞いて、考えた。

日本は本当に「学ぶ」という言葉に対するイメージが貧しい。それがひいては、人生設計力の低さにも直結しているんだろう。いい大学に行けばあとはなんとかなるんじゃないか、みたいな。実際にそれでなんとかなる人が多いというところが日本の国力でもあったわけだが、そういう時代も終わる。というかもう終わっているはずだ。

研究者さんも言っていたけど、国が教育の何に力を入れているのかで、その国が国民に何を求めているかははっきりわかる。学びというのは、もちろん高度に専門的だったり抽象的だったりする分野もたくさんあるけど、少なくとも義務教育レベルに関して言えば「『どう生きるか』をいかに考えさせられるか、そして実際にそれに挑戦する力を養わせられるか」が大切なポイントだと思う。そして日本の教育制度は、子供に「大人になりたい」と思わせる勉強を提供できていない。

「学ぶ」という言葉から連想されるのが、教科学習やお稽古ごとばかりなのがまず歪んでいる。そして教科学習やお稽古ごとは、日本では「子供が将来のキャリアのためにやるもの」になりがちである。幼いうちに、大人になってからの日々を安定させるためだけにこなすのが「学び」だとしたらつまらない話である。

しかも日本はネオテニー文化国だ。大人になりたくない、大人同士で付き合いたくない、老いていきたくないという大人があまりにも多い。そういう人たちは、人生の喜びは全て「若い文化圏」にあって、外見や精神の幼さを保っていればそこに留まる資格を得られると無意識に刷り込んでいる。つまり、大人時代は子供時代ほど面白くなく、子供時代はしかしその大人時代のためにあまり面白くない勉強をしなければならない、という妙ちきりんな状況が作られているのである。  

だからといって、「若さ」を日本国が本当に尊重しているのかと言ったらそうでもない。教育政策に対する公的支出は極めて低いし、児童擁護問題も山積みだし、教育に関する取り組みの質を上げていくためのエビデンス収集、データをとるための実験もあまりされていないのが現状だ。いろいろと辛い。

ところで、日本では65歳以上が「高齢者」として設定されているわけだが、この概念がアメリカから「輸入」されたものだということを今回初めて知った。アメリカは、早くからネガティブな社会問題として「高齢者」という存在を設定しており、言い方は悪いが公害のように扱ってきた歴史があるらしい。上昇志向の強いアメリカにとって、国力を落とす高齢者という存在はお荷物だったのだ。

日本は儒教の影響が強いので、もともと「年寄りは尊敬されるべき」という価値観があった。そこにアメリカ式の「高齢者」という考え方を持ってきたせいで、「年寄りはお荷物だが年功序列は絶対譲るべきでない」みたいなこれまたヘンテコな世界観ができあがってしまったのではないかと想像できる。

そして面白いのがヨーロッパとの対比。ヨーロッパの人が加齢を恐れないと言われるのは、ヨーロッパにおける「老後」の価値観が、40歳頃からの設定になっているからだという。つまり、子育てがひと段落するような40歳前後からが「第二の人生」なのだ。これを向こうでは「ラターライフ」と呼ぶらしい。まだ気力体力が充実している壮年期から、生き物として弱ってくる60代・70代の生き方をデザインし始めるので、しっかり準備できるしその過程でまた様々な学び直しを得られるとのこと。

日本人は、さっきも言ったように幼さを好み、老いを受け入れたがらない傾向にある。だから女は40になっても「女子」を自称し、男は60になっても「自分はまだイケている」ということの証明のために若い女を抱きたがる。そして、本当に肉体的にがっくりと老け込んだ段階になって初めて「老後」の準備にかかるのだが、その時にはもう元気がなくなってしまっている。

今日話した研究者さんは、「早くこの、ラターライフ的な価値観を日本に少しでも浸透させたい」とおっしゃっていた。これは実際、すごく重要なことだと思う。どう考えても、日本の「若いのが一番で、老後はパワーダウンしたごまかしの喜びしかない」というような空気は息苦しいし、中学生や高校生が主役のコンテンツばかりがメジャーを張るのも変だと思う。

40歳くらいからが第二の人生の始まりで、第一の人生とはまた違う冒険が始まる、という考え方は、私の感覚にはとてもしっくりくる。第一の人生があと10年だと思うと頑張る気持ちもまた増すというものだ。

私は、より良く生きるためにこそ学びたいし、それは一生続けられると信じている。

 

<今日の小池>

朝 サラダチキン(レモン味) 小松菜の胡麻和え

昼 ロイヤルホストで鶏肉ローストとレンズ豆

夜 ゴーヤ定食 りんご

メモ 今日は炭水化物少なめ。自分には炭水化物抜きよりグルテン抜きの方が合っているかも、と思う。