山羊の沈黙

たくさん読んでたくさん書く生活を模索しています。

孤花

架空の日記を書こうとしたらしい。(2022/12/07)

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 盛者必衰理。
 ブログ開設。内田百聞の日記の冒頭を真似して書いてみた。孤花(こか?)という花が実際にあるのか、内田百聞の造語なのかは知らないが、孤独な花だなんて、なんとなく趣があって字面が良い。俺が女ならこれをハンドルネームにしている。しかし俺は男なのでひとまず小林と名乗る。
 と、ここで確認の為に内田百聞全集を読み返したら、「孤」花ではなく「狐」花の間違いだった。彼岸花のことだ。恥ずかしい。俺は万事にわたってこういう人間だ。ケアレスミスだけで赤点を取りかねないタイプだ。俺の体の四割はうっかりで出来ていると母も言う。しかし、俺をできちゃった結婚で産んだ母の方も相当うっかりしている。
 このブログも、うっかり開設にいたった。二〇〇九年にもなってまだあまりうまくパソコンが使えていない縄文人みたいな俺に、現代人(顔は縄文人)の友人が「パソコンに慣れたいならブログでもやれ」と言ってきたので、そのままなんとなく開設してしまった、というか開設してもらってしまったのだ。トラックバックとか、RSSとか、よくわからん。まあ、ぼちぼち慣れて行こう。縄文顔君、見てる?
 大学に入って、気づいたら半年以上経っていた。入ってみたら案外狭かったキャンパスにも、周りの人間にも、一人暮らしにも慣れたけど、大学生である俺、というのにはいまいちまだ慣れていない気がする。
 とりあえず、今日はもう遅いから寝る。明日は一限から講義があるから、早めに寝なければならない。縄文時代の夢でも見よう。
(2009/10/08/23:49)

 

 横のメニューにプロフィールがあるけど、一応自己紹介なんかもした方がいいんだろうか。
 はじめまして、小林です。勿論本名じゃない。本当の名前はかなりややこしい。特定されたくないのでここには書かない。苗字も名前も、一発で正しく読んでくれる人が少なくて腹が立つ。中学の時、クラスメイトの鈴木という男にやたら羨ましがられたがうっとおしい話だ。いちいち「なんて読むんですか?」と聞かれるストレスに比べたら、一クラスに三人鈴木がいることくらい大した問題ではないと思う。俺はずっと、田中とか、林とか、そういうすっきりした苗字に憧れてきた。だからこのブログでは小林と名乗る。
 年齢。十八。大学一年生。一人暮らし。いろいろなブログを見ていたら、「早稲田大学のなんとか生活」だの「ムサビ生のなんとかな日々」だの、大学名を出している学生ブログが多いことに驚いた。例の縄文顔の友人に聞いたところ、「大学がわかると、ブログの持ち主について具体的なイメージがわきやすく、たまたま同じ大学だったりすると共感もしやすい。更に、難関大学の場合それだけでアクセサリーになる。どちらにしろその方がアクセス数が伸びやすいのだろう」とのことだった。なるほど。
 しかし、俺が通っている大学の名前を出したところでアクセス数が伸びるとは思えない。なにしろ地方の四流私立大学だ。好きで入ったのだし卑下するつもりはないが、嬉々として載せるモンでもない。何より、特定されたら困る。日本大学ならともかく、こんな小さな大学の名前を出したりしたら一発でバレそうだ。という訳で大学にもハンドルネームを設けよう。するめ大学(お察しのとおり、今おれが食べている)。俺はそこの、へなちょこ学部(仮名)に通っている。何を勉強しているかについては、ちょっと説明しにくい。とりあえず、文学部のようなものだと思っていてくれればいい。
 へなちょこな俺は、このへなちょこ学部で、己のへなちょこぶりに磨きをかけるべく毎日勉強に精を出している。
 今日の飯。
 朝 パン二枚 たらこ チーズ 
 昼 学食のAランチ
 夜 カレー
(2009/10/08/23:49)

 

 ある講義で村上春樹についての講釈を聞いた。俺は読書家の方ではない。村上春樹は名前は知っているが中身は知らない。
 教授が何やら絶賛の香りのする講義をしていたので、ちょっと読んでみようかという気になった。昼休みに大学の近くの書店で村上春樹のコーナーを見る。やたら多い。俺はこういう時、新しい方を選ぶ。「アフターダーク」というのが、文字が少なくて読みやすそうだったので買って読んでみた。正直俺にはあまり良さがわからなかった。しかし、強烈にデニーズに行きたくなった。デニーズに行って、計算しつくされた内装を味わい、機械で首をへしおられたチキンの入ったサラダを食いたいと思った。
 なので講義の後、縄文顔の友人(こいつは同じ学部だ)と二人でデニーズに行った。チキンサラダというメニューは無かったのでから揚げご膳を食べた。縄文君はかきあげうどんを食べていた。
 縄文君はうどん党である。一緒にコンビニに行くと必ずうどんを買う。学食でも、うどん以外食べたことがないという。何かある度すぐ「うどんをおごれ」とわめく。まあ、安上がりで良いことだ。
 男二人でデニーズに行っているくらいなので、当然俺達にカノジョ(語尾上がり)というものはいない。これから人肌の恋しい季節に突入していくわけだが、俺達の前途は暗い。二人とも絵に描いたような草食系・オタク目・ヒト属ヒト、だ。ま、へなちょこ学科に通う男の9割は俺達の同属なので引け目には感じない。
 女子の方はというと、こちらは案外種族がバリエーションに富んでいる。頭皮からチョココルネをぶら下げ、尻のポロリも辞さない勇気ある服装に身を包んだギャルから、真夏でもレースだらけの真っ黒なドレスを着こなし、真紅の口紅を引いている生粋の魔女っ子まで。俺はどっちも好みじゃないが。
 どうにも人付き合いが苦手で、後期になった今でも、仲の良い女子というのはほとんどいない。違う県出身なので昔からの知り合いというのもいないし、サークルにも入っていない。ひたすら大学と、バイト先(塾だ)の往復ばかりして過ごしている。退屈といえば退屈だ。そろそろ俺もドン・ファンになりたい。
 縄文君には、高校のときからの好きな女の子(名前は弥生ちゃんとしておこう)がいる。メールの一通や二通で狂喜乱舞、あるいは意気消沈している様は実に興味深い。話を聞く限り、弥生ちゃんが縄文君に気があるとは思えないのだが、縄文君はめげていない。頑張れ。時代を超えろ。
 その縄文君から、「実はサークルに入ろうと思っている」とデニーズで聞かされた。
 実は俺と縄文君は、春のサークル勧誘会の時に知り合っている。二人で散々あちこちのサークルを回ったのだが、どこも決め手に欠けて、結局入らずに終わってしまったのだ。縄文君が入ろうと思っているのは、よくわからないが雑誌を作っているサークルらしい。ちょっとおもしろそうなので、明日見学についていくことにした。
(2009/10/08/23:49)

 

 複合表現サークル「共鳴」の見学に行く。代表は三年生の男子だが、この大学に入る前に別の大学に通っていた経歴を持つため、今年二十五歳だという。モード系というのだろうか、やたらおしゃれだ。でも、その手のやつによくいる細くて猫背で小声なタイプではなくて、やけに筋肉質だし声もでかい。黒縁めがねでグレーの帽子をかぶり、ブランドもんのかばんを持っていた。だけど服はユニクロばかりなんだそうだ。

(未完)