山羊の沈黙

たくさん読んでたくさん書く生活を模索しています。

会社員になりました

株式会社バトンズに入社した。『嫌われる勇気』の著者として有名な凄腕ライター、古賀文健氏率いるライターズカンパニーである。先月からオフィスには出入りしていて、正式な入社は本日からとなる。2年半ぶりの会社員生活の開始だ。

古賀さんと知り合ったのは、古賀さんがバトンズを立ち上げる少し前のことだったと思う。共通の知人(編集者)がいて、たまたま少し話をした。ドストエフスキーの話をしたことは覚えている。そのあとはとくに会う機会もなかった。FBで繋がったりもしなかった。私が一方的に尊敬を募らせ、古賀さんの書いたものを読んでいただけである……と思っていたのだが実は違ったらしい。ありがたいことである。

古賀さんとも付き合いの深い、柿内芳文さんという編集者がいる。まだ二十代のときに、かの『さおだけ屋はどうして潰れないのか?』(光文社・山田真哉著)という本でミリオンヒットを飛ばし、その名を出版界に轟かせた名編集者だ。私が企画・構成・作画を担当した『百合のリアル』(星海社・牧村朝子著)は、もともと柿内さんに拾ってもらった企画である。柿内さんにバトンズに入ることを伝えたところ、「よかったね! 古賀さんを倒さないとね」と大変な激励を受けた。

古賀さんを倒せ、と言われて肝の冷えないライターはいないだろう。今の出版界でミリオンセラーを出すというのは、これは本当に大変なことなのである。昔とは販売規模が違うからだ。ほとんどのノンフィクション書籍は初版が3000〜6000部程度。1万部以上刷れればけっこう多いくらい。小説だって、ライトノベル以外の刷り部数は数千程度である。今の10万部が、バブル期の100万部相当の規模なのではないかという意見も見たことがある。

『嫌われる勇気』は、200万部以上(世界累計)を出している。これがどれだけすごいことか、少しでもわかってもらえるだろうか。古賀さんは、日本ライター界におけるフリーザ様だ。今の日本で一番仕事がくるライターである。政治家にとっての戦闘力が得票率であるように、我々にとっての戦闘力は発行部数なのである。そして、私の今までの最高部数は4万5千部。今の段階ではヤムチャでしかない。

先輩社員である、ダイヤモンド社の編集からライターに転身した田中裕子さんもたくさんのヒットを出している。二人にはこれから、教わることばかりだと思う。

とくに知名度があるわけでもないし、ツイッターのフォロワーがめちゃくちゃ多いわけでもない。そんな私がバトンズに引っ張られたということで、周りからはそれなりにいろんな反応があった。あからさまに態度の変わった編集者もいた。良くも悪くも、「すごい人」のそばに行くというのはそういうことなのだと思う。環境が変わり、周りの目が変わる。そっちの変化が先で、自分自身が変わるのはそのずっと後だ。というか、後でありたい。

「小池さんは、そういうことをしない人だと思ってましたよ」

そう言ってきた編集者が何人かいた。組織に属するのが意外、という意味だと思う。その印象はよくわかる。

私は組織が苦手である。子供の頃から協調性がなくて、「自由にグループを作って」と言われると「ひとりでもいいですか?」と先生に聞く子供だった。なるべく一人で生きていけるように、一人で生きていけるようにと考えて30年近く生きてきた。会社員時代は自分を押し殺していたし、恋人も作らなかったし、家族とも頑張って縁を切っていった、そんな人間だ。

でもここからは、反対の方向で頑張るべき時期みたいだ。恋人ができ、会社にも入ることになった。愛する人とプライベートを共有し、尊敬する人たちと一緒に働くという生活。はっきり言ってそんな生活、今までイメージしたことがなかった。イメージできなかったから避けていた。でも始まってしまって思うのは、ただ誠意を尽くしたいということだけである。

仕事で認められたくて緊張するとか、恋人の元カノの影に怯えるとか、仕事とプライベートの配分に悩むとか、そういう、今まで「自分には関係のないこと」だと思っていたことを、私も遅まきながらフルコースで味わった。苦しくても、それでもやっぱり贅沢なものを味わっていると思う。

本作りには時間がかかる。初仕事はもう始まっているが、結果が出るのは半年後くらいだ。バトンズの名に恥じない仕事がしたい。ここにいるのは、「良い本を作りたい」という思いを持った人たちだけなのだ。それがどんなに素晴らしいことか、またいつかちゃんと語りたいと思う。

 

<今日の小池>

朝 カレーパン レーズンパン

昼 ゆで卵

夜 ゴーヤ定食

おやつ いもけんぴ

メモ ゴーヤ定食が美味すぎる……。