山羊の沈黙

たくさん読んでたくさん書く生活を模索しています。

ステップ

○  学校のテラス
あやか「お友達になってほしいんです」
さくら「……それはそのー、お友達から始めましょう、って意味じゃないよねえ」
あやか「はい」
さくら「私たまにあるんだ、そういうの。だからもしそういうのなら」
あやか「違います。純粋で、まっとうで、普通のお友達になりたいんです」
さくら「……はあ」
あやか「駄目ですか?」
さくら「駄目っていうか、なんつうか突然だよね」
あやか「そうですよね。普通、いきなり知らない人間からこんなこと言われたら驚きますよね」
さくら「いや、あんたのことは知ってるよ。うん」
あやか「え、なんでですか?」
さくら「なんでって……同じ学部だから顔くらいは知ってるさ。それに超モテるって有名じゃん」
あやか「やだ、そんなことないのに」
      男子が一人近づいてくる。
男子「あ、あの、これ、僕の電話番号とアドレスなんですけど、よかったら」
あやか「結構です」
      男子、去る。
あやか「噂というのは大きくなりがちなものですね」
さくら「……そうかもね」
あやか「それで、考えていただけますか?」
さくら「え? あ、う、うん、別に……」
あやか「(喜んで)じゃあ、これからお友達ですね! あやかって呼んでください!」
      さくら、怯む。

○  学校の教室
      授業を受けているさくら。横を見るとあやかがいる。
      目が合って、にっこり笑うあやか。
      さくら、微妙な顔で顔を先生の方に戻す。

○  食堂
      さくら、隅の方の席で、ひとり麺をすすっている。
      顔を上げると、あやかが菓子パンを食べている。
      目が合って笑うあやか。さくら、黙って麺をすする。

○  学校から駅までの道
      一人で帰っているさくら。後ろからあやかが走ってくる。

○  学校のテラス
さくら「ストーカーすんなや」
あやか「すみません……」
さくら「私、べたべたすんの苦手なんだよね。ほらああいうやつ」
     さくらの視線の先に、数人でトイレに入っていく女子の姿。
さくら「私がそういうタイプだってことくらい、知ってたんじゃないの?」
あやか「知ってました」
さくら「知ってたって言われるとそれはそれで微妙だ」
あやか「うれしくって、つい」
さくら「友達って別に、いつも一緒にいるってことじゃないでしょ」
さくら「はい、そう思います」
     男子(前のとは違う)がやってくる。
男子「あのさ、アドレス教えてほしいんだけど」
あやか「だめです」
     男子、去る。
あやか「本当にごめんなさい。次から気をつけます」
さくら「……敬語はいいよ。同い年じゃん」
      あやか、笑う。

○  学校のラウンジ
友達1「ちょっとキモくない? それ」
友達2「さくら、気をつけなよ」
さくら「別に悪い子じゃないよ」
友達3「でも井上さんて美人なの鼻にかけてる感じ」
友達1「言えてる」
友達3「友達になりたいなら普通になればよくない?」
友達2「そうそう、超簡単じゃん」
      さくら、あいまいに頷く。
友達3「てかなんでさくらと友達になりたかったんだろ? 趣味合うの?」
さくら「知らね。まだよく知らないもん」
友達1「あー退屈―。ねえ、カラオケ行こうよお」
友達2「いいね!」
さくら「私はいいや」
友達3「また別行動―? ノリ悪いんだからー」
     席を立って歩き出すさくら。途中で振り向く。
     今までよりも盛り上がっている三人。

○  学校のどこか
     あやか、自分の好きな音楽をさくらに聞かせている。
     ヘッドホンをつけたまま呆然のさくら。音楽はヘビメタ。
さくら「……こういうのが好きなの?」
あやか「うん。さくらちゃんは?」
さくら「私? 私は普通にJPOP……aikoとか」
あやか「そうなんだ~、意外~」
さくら「そりゃこっちの台詞だよ」
     男子(前のとは違う)がやってくる。
男子「すみません、友達からでいいんですけど」
あやか「ごめんなさい」
     男子、去る。
さくら「……なんでこんなに趣味合わない奴と友達になろうと思ったの」
あやか「さくらちゃん、いつも一人で本読んでるでしょ。何を読んでるのか、どういうことを考えながら読んでるのか、ずっと気になってたの」
さくら「ふうん」
あやか「趣味って、合わなきゃ駄目なのかな?」
さくら「合ってた方がいいんじゃないの、趣味とか、ノリとか」
あやか「自分の知らないこと教えてもらうのも、楽しいから」
さくら「……」
あやか「変な声のかけ方してごめん。私、友達のなり方がわからないの。どうやってみんなが自然に仲良くなってるのか不思議で」
さくら「そんなこと私も知らないよ」
あやか「男の子に付き合ってって言われた時に思ったんだ。私もこれ、やってみようかなって」
さくら「ゆ、勇気あるね」
あやか「正直、それで友達になれるなんて全然思ってなかったの。絶対『いやだ』って言われると思ってた、ふふふ」
さくら「……」
      戸惑うさくら。
その時友達3人が通り、二人を見て笑う。気づかないあやか。
あやか「友達になるって難しいよね」

○ ラウンジ
      本を読んでいるさくらを囲む友達三人。
友達1「さくら、まだ相手してやってるの?」
友達2「ほっとけばいいじゃん、何の得もないんだし」
友達3「そういうマジすぎる子ってめんどくさいって」
友達1「ねえねえ、ところで彼氏がさあー」
      さくら、無言。

○  学校のテラスのそば
      さくら、テラスに座っているあやかを見つける。
あやかは電話をしている。
あやか「――大丈夫だって。うん、元気にしてるよ」
      声をかけずに通り過ぎようとするさくら。
あやか「うん、平気。お母さん心配性なんだから。もういじめられてなんかないって」
      さくら、歩みを止める。
あやか「友達? うーん、相変わらず。でも頑張ってるよ。なれるかどうかわからないけど、友達になりたい人がいるの」
      さくら、頭をぼりぼり書くと、あやかに向かって歩いていく。


<了>