コロブチカ
四角いブロックは、天井からとめどなくこぼれ落ち続ける。楽しいのは、それを流し込む隙間をキープし続けることだ。ブロックを消すことじゃない。消しすぎると不安になる。積み上げたくなる。隙間を作り続けたい、そう思う。私の体と同じような隙間があることを安心に思い、そこに新たなブロックを流し込む快感を期待し、その期待を期待のまま留める為に細く長く、隙間を紡いでゆく。
てーてれてーてれてってれてーてれてってれてーてーてーてってー。
テトリスの始めに流れるあの音楽が、コロブチカというロシア民謡であることを、私は最近になって知った。あの哀愁に満ちた旋律は、私にとっての死の記憶と固く結びついている。テトリスのあの掌にすっぽり収まる大きさ、透き通った青色、ぷちっとした感触のゴムのボタン。一つ一つを思い出すたびに、死の吐息が私の首筋にふきかかる。
「懐かしいもん買ってきたんだな」
それを買って帰った日、彼はそう言って笑ったけれど、私はテトリスをやったことが無かった。信じられねえ、俺なんか十万点取るまでやってたよ。そう言われた頃、私はようやく操作に慣れて、五千点とれるようになっていた。右端一列を空け、そこに細長いブロックを落とすことで一気にブロックを消す方法は、すぐに自分で見つけた。
「あんまりやりすぎるなよ」
「なんで?」
「気が狂うから」
「そうなの?」
「積んで消して、そんな作業を何時間もやれるような人間は、まともじゃないよ」
翌日彼は死んでしまった。積み上げたブロックのような、いびつな形をしたビルの窓から身を投げて。理由は知らない。
てーてれてーてれてってれてーてれてってれてーてーてーてってー。
コロブチカというのは、行商人が背負う箱のことなんだそうだ。テトリスは、私にとってのコロブチカだった。
自分の部屋の壁にもたれて、黙々とブロックを積み上げる。高く積み上げたいのでも、たくさんのブロックを消したいのでもない。
隙間を失いたくないだけだ。
<了>