山羊の沈黙

たくさん読んでたくさん書く生活を模索しています。

卒業式

ネットカフェからの更新。

パソコンは、すでに戻ってきています。ただ完全に初期化されてしまっていて、もう一度BIGLOBEに登録しなおさなきゃいけなかったりしているので、今度派遣スタッフの人を呼んでちゃんとやってもらうことになりました。

 

昨日は卒業式だった。私は早く卒業したくてたまらなかったから、式ではまったく泣けなかった。答辞を読む気満々だったのに、その役を美少女副会長に奪われてしまったので(私は成績が悪い上進路が決まってなかったから、『答辞なんかより勉強のことを考えろ』と言われてしまったのだ)、そのことも相まってずっと退屈だった。

教室に戻ってきて、みんなでアルバムの最後のページにメッセージを書きあったりして。われらの担任が静かに話をはじめた。

先生は、説教みたいなことをほとんどしない。イベントのときもほとんど口出ししない。私たちが自分たちで決めたことを、しっかり応援して支えてくれる人だった。その先生が初めて、ちょっと長く私たちに話をした。

「皆、いつも自分達で考えて、しっかり自分達の力で行動していた。皆は立派だった。勉強やなんかよりも、そういうことこそが、これからの人生の力になる。皆の担任になれてよかった。俺はとっても楽しかったよ」

ちょっと泣きそうになりながら話をしている先生を見て、女子の半分くらいがじわじわ泣き出した。そしてその後、学級代表の男子と女子が、先生に、大きな花束と皆がメッセージを吹き込んだビデオテープを渡したんだけど、その代表の男子が涙もろいやつで、二言三言口にしただけであとはもう涙で言葉にならなくて、それを見て先生も泣いて、またまたそれを見て皆だーだー泣き出してしまって、クラス中が涙涙のすごいことになってしまった。

私も鼻が熱くなって、気づいたらぼろぼろ涙が出ていた。うちのクラスは、ぱっと見派手そうだけど実は素朴な子ばかりだったから、こういうとき、変にしらけるようなやつはほとんどいなかった。女子は皆泣いてたね。男子もじわっときてたみたい。

このとき、初めて「ああ、私は卒業するんだなあ」と思えた。もう、この40人と同じ部屋で同じことを勉強したりすることはない。学校祭やなんかもない。私達は今まで、ある道を共有していて、よくそこを一緒に歩いていたけれど、もうこれからは全員が完全に別々の道を歩いていくことになるんだ。それを実感して、やたらとせつなかった。


さてそうやって別々の道を歩もうとしている私達だけど、当然、最後の打ち上げが待っていた。夜八時からのSAKEありのどんちゃん騒ぎ。私はバイトがあったから、2次会から参加する約束をして、家に帰った。


そしてバイト。始めて2週間がたつけど、前にも書いたとおり私はむやみやたらとほったらかされていて毎日どきどき。レジ締めの作業というのがあるのだが、これがかなりややこしくて難しくて、でも一人でやれと言われていて、毎回10時が近づくにつれて気が遠くなりそうだ。

途中でとちると、フロアの社員がほかの階からスタッフを呼ぶことになる。それがまた、いかにも私は迷惑かけてるなあという感じで悲しい。その社員がお気に入りの女子大生(とてもかわいい)がいて毎回その人を呼ぶので、彼女に嫌われてやしないかととても不安。

その女子大生の先輩に言わせれば、「入ってすぐにレジ締めなんて無理すぎる。みきさんは悪くない。悪いのはこの店!」ということで、私が出来ないのは当然だと考えているみたいだけど、それにしたってきっと「早く覚えやがれ」って思ってるに違いない。


10時半くらいに店を出て、半泣きになりながらとぼとぼ地下鉄に乗って、クラス会の2次会に参加するために電車に乗って某駅へ。その途中、とんでもない目にあった。

ほかのクラスも、今日が打ち上げのところが多くて、電車の中でほかのクラスの女子三人に遭遇した私。一人がぐったりしていて、あとの二人が介抱していた。ぐったりの原因は言うまでもなくSAKE。まったく、卒業した日を泥酔状態で締めくくるなんて不健全にもほどがある。

彼女らは次の駅で降りたんだが、そのとき酔っていた女子が吐いたのだ。大量じゃなかったけど、電車内に、ものすごく嫌な空気がただよったのは言うまでもない。まるで誰かがテリトリーを広げたのに気づいたかのような殺気(by幽白)が走り抜けた。

三人はあたふたと電車を降りてしまって(ひどい)、残されたのは私と吐瀉物。電車内の人々が、こころなしか私を白い目で見ているような気がしないでもなくなってくる。

冷静にかばんの中をあさったら、その場をどうにかできそうなブツは一つしかなかった。朝買ったストッキングの替え。それで床を拭いたのね。まったく、何がかなしゅうて新品のストッキングを雑巾代わりにしなきゃいかんのかね。でも別に良い子ぶるわけじゃないけど、私は公共の施設を汚したりするのが一番嫌い。未成年の飲酒より、もっと悪い行為だと思っている。他人のげろだけど、友達がやったことなんだからしょうがないと思って、一気に拭いた。どーせ、内容なんて酒と鶏肉と胃液だけだし(汚い話でごめんなさい)。

別に死ぬわけじゃないし、と心の中で100回くらいつぶやきながら拭いたストッキングをがばちょとつかんで立ち上がり、さっさと駅を降りた。振り向いたら、乗客が全員こっちを見ている(汗)。「なんじゃあいつは」と思われたか「えらい」と思われたかわからないけど、恥ずかしいったらありゃしない。


マッハで手をごしごし洗って、ホームを歩いていたら、クラスのやつらが数名登場。その中の一人、私と同じ中学出身の男子がこう言った。

「悪い、俺を送ってくんない?」

熱燗を一気飲みしまくったもんでふらふらで、この状態じゃ家までたどり着けない、と主張する彼。ものすごい自己嫌悪に陥っていて、かわいそうだったし二次会も中止になっちゃったというので承諾した。彼の家はうちから近いので、家まで送ることに。なんで女の私が夜に男を送っていかなきゃいけないんだろうか、という疑問は考えないようにして、二人で帰宅。


送ったあと、旧い男友達のヒロ(仮名)に遭遇。二人でてくてく歩きながら、昔話をしていた。そして、その話が私達のある共通の男友達の話になったところで、ヒロがおもむろに言い出した。


「○○、この前交通事故にあったんだよ。車にはねられて…今意識不明の重体。もしかしたら…このまま一生植物人間かもしれないって」


何を言われたのか一瞬わからなくてぽかんとしていたら、ヒロの目からぼろぼろ涙が出てきて、頭が真っ白になった。


「俺、部活の皆(彼らは同じ部活の仲間)と病院に飛んでってさあ、全員で泣きながら声かけたんだよ。でもあいつ何にも言わねーし、目もさまさねーんだよ。男が大勢で鼻水たらして呼んでんのに、無視するんだよ。ありえないだろ?」


ありえない。

私の頭の中に、そいつ関連の記憶がぶわっとあふれ出したけど、それは全部、私に対して悪態をついてるところとか、自転車で通りすがる瞬間に「ゴリラー!」と叫んでるところとか、そんなんばっかだった。

彼は、ものすごい屁理屈屋で、誰に対しても皮肉やいやみばっかり言っていて、しょうもない嘘で誰かを驚かすのが趣味で、たいして顔がいいわけでもないのに女たらしで、変な奴だった。その彼が、植物人間だって?

何も言えずにぼんやりしていたら、ヒロが泣きながら言った。


「ごめん、久しぶりにお前と話してるのにこんな話して。このことさ、俺達部活のメンバーしか知らないんだ。あっちのお母さんとかもすごいまいってて、あんまお見舞いとか殺到するとよけいつらくなるだろうから、内緒にしてるんだ。でも、お前はあいつと仲良かったから…」


それを聞いた瞬間、大泣きしてしまった。その時まで考えたこともなかったけど、私達はたしかに仲がよかったのだ。いつもあいつは私をからかい、私は彼をひっつかまえて滅多打ちにしたりしていた。一緒に遊んだことはほとんどなかったけど、学校でいろんな話をしていた。

彼は特殊な業界に進もうと考えていて、そのために、とても倍率の高い学校を受けていた。そして合格発表の日、私が「受かった?」と聞いたら、彼は初めて、そのとき初めて私に対して嫌味を言う前に「受かった!」と普通の言葉を投げかけて、そしてでっかい手を広げて私が伸ばした手を叩いた。泣いていたら、そのときの手の感触までがよみがえってきて泣けた。ヒロも、みっともないくらい泣いていた。


「俺達皆、誰もあいつがもう起きてこないなんて思ってねーんだよ。だって○○だよ?あのほらふきがさあ、こんなしょうもないことで死ぬか?30キロしか出してない車にはねられたくらいでこんなんになりやがって、ホント馬鹿じゃねーのあいつ。

俺たち誰も宗教なんてやってないけど、毎日お祈りしてるんだよ、あいつとまた一緒に遊べますようにって。千羽鶴も折ったよ。でもまだ起きてこない。ひどいよな。あいつのせいで、俺、大学受かったのにちっとも嬉しくない。このままじゃ何も喜べないよ。マジ、俺ら皆○○のことすっげー好きだったんだぜ」


こんな台詞、小説の中でしか読んだことなかった。しかしこのまんま、彼は口にだしていた。ぐずぐず泣いて、鼻水をすすりながら。私達二は、しーんとしてる夜中の道を、泣きながら歩いた。はたから見たら多分異様な光景だっただろう。


ヒロはずっと彼の思い出話をしていたけど、私は別のことを考えてた。

くも膜下出血で死んだ、父のこと。

私の周りには、脳にダメージをうけて死んだ人がとても多い。親父のほうの親類は皆そうだ。親父の場合は、私が小学生のときにもうすでに50歳を過ぎていたし、働きすぎていたから、そういう病気にかかる可能性は昔からずっとあった。冷たいと思われるかもしれないけど、私は親父がくも膜下出血になったとき、「ああそうか」と納得したのだ。でも、○○の場合は違う。ほんとうに、何もそんなことを思わせる要素なんてなかったのに、そんなことになったんだから。

私は、親父が入院していた一ヶ月の間、一回も病院には行かなかった。母さんも行かせようとしなかった。植物人間になっている親父を見たくなかったし、きっとすぐ帰ってくると思ってたから。

私が親父を見たのは、死ぬ前日だけだった。チューブをさしこまれ、横たわってる親父を見て、私は「死んでる」と思った。

ヒロは、○○の姿を見て、「寝てるだけみたいな顔だ」と思ったらしい。それなら○○は助かるんじゃないだろうか、と思った。だって私は親父の姿を見たとき、まぎれもない死の影を見たからだ。寝てるだけだなんて思えなかった。あの体からは、魂のにおいがしなかったんだもの。

でも一方で私は、植物人間状態から死人への、あまりにもスムーズな移向の仕方を見ていたから、○○の生還を完全に信じることができないような気もした。○○が死ぬなんて、実感わかないなんてもんじゃない。地球の裏側で起きてることを聞いてるみたいだ。

悲しくてぶるぶる震えていたら、ヒロが私の肩を叩いて言った。


「お前も信じててよ。きっと○○は元気になるよ。そしたら皆で遊ぼう。そしたら絶対お前もこいよ。真っ先に電話するからさあ」


そう言っているヒロ自身が一番不安で悲しくて、たまらない気持ちなのがわかったから私は泣くのをやめてうなずいた。ヒロと分かれて、家に向かったのは12時半を回ったころだった。


「人生にはこういうこともある」ということを、私は親父の死で知ったつもりだった。これから似たようなことが起きても、自分はそんなに驚かないだろうという気がしていた。でも、まだやっぱりだめだ。

泣きながら家に帰って、母にその話をしながらまた泣いた。母はもちろん、一ヶ月親父のそばに付き添った経験があるから、○○の家族や○○に、深く同情していた。


「今の医学は進歩してるから、助かる見込みはいくらでもあるよ。たとえ植物人間状態でも、手を握ってあげれば心が反応する。声をかけ続けた結果、元気になった患者さんはたくさんいるんだから、**もお見舞いにいって『ほらゴリラがきたよ』って言ってあげなよ」


寝て起きたら、もうへこんでいた気持ちもなんとかもとに戻っていたけど、でもやっぱり体の奥が重たい。そして、気持ちを整理するために、これを書いた。私は元気なので、私のことを心配する人がいたら別にそんな必要はないです。飯も食えるし、漫画を読んで笑うこともできる。そこまで私はセンチメンタルな人間じゃないし。だから、私が毎日泣き暮らしているんじゃないかとか思わないでくださいね。

ほんと、人生って何が起こるかわからんなあ。私だって○○みたいな目に合わないとは言えない。そのとき、ヒロみたいに泣きながら声をかけてくれる人が何人いるだろう、などと思ったり。


疲れたんで、この辺にしときます。おもしろくない日記ですみません。とりあえず、早いとこうちのパソコンも元気にさせようと思います。んでは。

 

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その後◯◯は意識を取り戻した。ある時偶然私のバイト先の本屋に来てびっくりしたな。(2022/12/11)。