山羊の沈黙

たくさん読んでたくさん書く生活を模索しています。

転職を決意

 明日は社内試写。徹夜で準備中。そして夜は某社の面接。

 入社して三カ月もたたないのに転職を決意してしまった私。仕事がハードだからではない。確かに拘束時間は異様に長いけど(朝9時に出勤して翌朝4時までとか)、その中でこなさなければならない仕事量というのは少なくて、むしろ前ののんびりやってた出版社バイトの方が、内容は濃かったとすら思うほど。基本的に「結果を見て某所へ連絡」「某所からの連絡を待って某所に発注」などなど「待ち」の仕事が多く、能動的にやらなければならない作業というのはほとんどない。
 じゃあなんで転職したいのか。今の会社でやっていけなさそうな理由が三つほどあるから。

 一、金に対する考え方が違う。
 一、時間に対する考え方が違う。
 一、人に対する考え方が違う。

 この三つが違えばもう十分でしょう。私はここではやっていけない。悪い会社だとは思わない。番組制作会社の中でも良心的で、アットホームな会社だと思う。AD仲間もみんな良い子だ。かわいいし。でも私にはだめだった。会社を通して私の精神に触ってくる、局のシステムが気に入らない。どうしようもない。

 ひとつ、ものすごく気に障ったことを書き残す。
 24日土曜日のスタジオ収録。21日から三日間、あまりの忙しさに横になって眠るということを一切せず、睡魔の限界がくると机につっぷして十分くらい寝る、という悪夢のような現実を繰り返しつつ迎えた本番日。コンディションは最悪だが、AD全員そんな感じなので特に異様なこととも思わず、皆でえっちらおっちらスタジオへ。
 スタジオ収録の手順を全部説明するのは難しいのではしょる。とりあえず、芸能人がスタジオ入りする前に代役を立ててカメラ位置なんかを調整する時間があるのだが、この代役というのはわれわれ下っ端ADが行う。私はこの日たまたま、レギュラー芸能人の代役をやった。CGカメラマンが、CGで作られたマスクと、顔の位置がずれないように調節していく。モニターにちょこちょこ自分の顔が映る。ただでさえ自分の顔なんか見たくないのに、ハイビジョン大画面に映るから卒倒しそうになる。
 そしてインカムで飛び交うんですね、嘲笑が。誰が笑ってるって、演出とか、スタジオ仕切りのTDとかの、調整室の卓に座ってるお上の連中です。別に笑われるのはかまわないんだけど、嘲笑なのだ。明らかに。まるっきり馬鹿にした笑い方。
 私は自分のツラ構えや体つきにコンプレックスがあるので、顔を嘲笑われると真剣に凹む。その場で帰ってやろうかと思った。ADは確かに下っ端だけど、下っ端だからって、人間としての尊厳まで切り渡すつもりはない。ADより偉いからって、ADを小馬鹿にしていいってわけでもあるまい。本当に腹立たしい。

 もともとテレビ嫌いだし、テレビ業界人なんて嫌なやつばっかりに違いないと思ってた。学生時代、周りにいたテレビ業界志望者にもろくなのがいなかったし、父も母もマスコミ系業界のフリーランスだから、どれだけ嫌な世界か日常的に聞かされてもいた、それでもやっぱり、最終判断は自分の目で見て、耳で聞いて、手で触れてからだ、と思っていたのだ。

 もう子供じゃないから「ここまでひどいと思わなかった!」とまでは言わないけども、「ああ、都市伝説じゃないんだやっぱり」くらいの落胆は日々感じる。局に出入りして、えらい人や有名な人と話したりすれちがったりこきつかわれたりして、汗水たらして全力で働いて、それでようやくわかった不快さ。ひょっとしたら知らなくてもよかったことなのかもしれないけれど、でも知ったことを無駄にはしたくないと思う。少なくとも、いくつかの事例に関しては(上記の内容とはまた別で)、ネットの情報などではなく、自分で見聞きした情報を元に「イヤだ」と言える。

 24日の夜、収録の疲労がとれないまま、ふらふら本屋を渡り歩いている時ふと「辞めようかなあ……」と思い始めた。嘘みたいだけども、そのとたんに母から「その仕事、もう辞めなさい」という内容の電話がかかってきた。上京してからというもの、妙に良いタイミングで電話かけてくることが多い母である。身近に相談する人間がいない分、たまの電話が響く。晴れ晴れとした気分で「だよね!」と返した。東急七階ジュンク堂からの帰り。エレベーターで下界を見下ろしながら、19時50分、転職を決意。

 嫌なことばかり書いてしまったが、もちろん面白いことも色々あった。色んな場所に行けたし、飛行機にも新幹線にもすっかり慣れた。もう、国内なら大抵のところあっさり行けそうだ。それは私の中で大進歩。あとカメラの使い方とか、テレビの配線のこととか、動画の編集ソフトのことなんかが前よりもわかるようになった。これも大きな成長だ。

 この会社での経験を後悔はしていない。入って良かったと思うし、嫌な記憶が楽しい記憶に大幅に勝るわけでもない。上司も、私の近くにいる人はみな良い人だった。鬱病になりそうとかそんなことも特になく、ただ淡々と「でも職場を変えよう」と考えて今に至る。試用期間が終わるのが10月12日なのでそれまでに辞めたい。今やっている回が完パケしたら辞めようかな、と思ってるが、プロデューサーに言うのに勇気がいる。APに明日明後日あたり言い出してみようか。

 まあ、近況としてはそんな感じです。週に三日は徹夜で会社に籠城という多忙な日々なんだが(これまでの休日……7月:3日、8月:2日、9月:1日。順調に減少)、案外読書の方ははかどっていて、今月もなんだかんだで20冊くらいは読んだ。レビューを書きたいけどそれはなかなか手が回らない。一番面白かったのはサヴァンの「ぼくの美しい人だから」だった。

 秋の匂いが良い感じ。早く会社を辞めて、代々木公園をのんびり散歩したいものだ。会いたい人もたくさんいるし。とりあえず明日明後日を乗り切ろう。