山羊の沈黙

たくさん読んでたくさん書く生活を模索しています。

『アナと雪の女王』

 退職後一日目です。
 午後に池袋で映画『アナと雪の女王』(原題:Frozen)を観て、「瞠」のラーメンを食べ、カラオケに行って、15キロほどウォーキングしてから帰宅。完全に休日モード。体がなまっているのでそろそろ運動も再開しようかと。

 世界的にヒットしているらしい『アナと雪の女王』。面白かったです。ディズニーの何度目かの(3回目?)黄金期が始まりそう。
 まず、主役カップルであるアナ王女と山男クリストフがいい。アナはディズニープリンセス史上最高にみっともない顔やポーズが多いけれど、とにかく生命力に溢れていて文句なく可愛い。クリストフはでかくてもっさりしていて、そして抜群に頼もしい。ラプンツェル&ユージーンに負けない「リアルに羨ましいカップル」でありました。
 公開前から話題沸騰だったイディナの「Let it go」をはじめ、歌曲はどれも良かったです。私は「Let it go」より「For The First Time in Forever」の方が好きかな。

 「プリンセスもの」の系譜であると明言している通り、全体的な雰囲気は完全に『塔の上のラプンツェル』を踏襲(ラプンツェルとユージーン、出演してたし)。冷静で優等生的な姉、初めて出会った色男とすぐに婚約してしまうおてんばで感情的な妹、という組み合わせはオースティンの『分別と多感』を彷彿とさせる。
 今作の特徴は、プリンセスが二人であることというより、本来"ヴィランズ”であるべきポジションにヒロインの一人を置いたことと、「男女の愛」を主軸に置かなかったことですな。もちろんこれは二つで一つなんだけど。
 前者に関しては、『ラプンツェル』の構図の更新だと思います。『ラプンツェル』のヴィランであるゴーテルが「私の側から離れてはいけない。それは私の愛情を裏切る行為だ」という"呪い”をラプンツェルにかけているのに対して、エルサは「私の側から離れていてほしい、それが愛情の形だから」という拒絶でやはりアナを呪っている。ラプンツェルもアナも「母(姉)の愛情を扱いかねており、それによってディスコミュニケーションが起きる」という点では同じ。
 『ラプンツェル』の(私が思う)微妙な点は、真実を知ったラプンツェルが、突然「ゴーテル許すまじ」に変貌してしまうところだった。ラプンツェルはゴーテルとは一応家族として十数年共存していたはずなので(虐待の一種ではあるが)、あの反応には弱冠違和感がある。あの脚本は文字通りの「母殺し」で物語におとしまえをつけたわけですが、個人的に「ガチで殺してもあんまり解決した気がしないなー」と思ったのも確か。
 ディズニーも、そこをどうにかしようと考えたのかもしれない。ピクサー製作作品ではあるものの、2012年の『メリダとおそろしの森』では、「ガチ殺し」のできない、「誤解ですれ違う母娘」という関係にフォーカスしていました。そして成功はしなかった。残念ながら。
 
 今回、主人公が「対決」するのは実姉なので、『メリダ』と同じく物騒な解決法はとれない。アナとエルサ、姉妹同士による「許し合い」をゴールに話は進む。その許し合いが「真実の愛」として一番存在感を持つよう、脚本の全ての都合をそれに合わせている。何しろ今回、なんと主役カップルのデュエット曲すらないのです。これはプリンセスもの史上初のはず。
 ラスト、クリストフのところに向かっていたアナが、ハンスに斬り殺されそうになったエルサの元へ方向転換する、なんていう演出も、親切すぎるくらい分かりやすい。エルサに相手役を作らなかったのも間違いなく、「『真実の愛』とは男女の愛だけではない」、ということの強調のためでしょう。だからこそ最後のシーンは、アナとクリストフではなく、エルサとアナが手をつないでいるわけですな。その分かりやすさは、おおむね功を奏していると思います。「ここまでやってわからん奴はいないだろう!」という気迫を感じる。
 ちなみにこの映画の本編観賞前に、ディズニー実写映画『マレフィセント』の予告を観ましたが、やっぱり引き続きこの路線(女VS女の呪い的関係)を開拓するようで、そういう時期なのかなと思ったり。

 私の感想をもう少し言うと、ハンスがあまりにもゴミのような敵役だったので、そこが残念。また、“Conceal don´t feel”、“Open the gate”、“true love”など、テーマを象徴する言葉が色んな場所で連呼されていたにしては、終盤が忙しすぎてもろもろのモチーフやキーワードが繋がりきらないまま終わった印象もある。エルサの、"心"の制約を外した状態というのがあまり伝わってこないんですよね。良い人なのは勿論わかるんだけど。
 あ、といっても所詮ディズニーに甘い私なので、充分楽しみました。とにかくクリストフが好きすぎる。ディズニー史上ダントツで好み。ユージーンといい、最近のディズニーは骨太男贔屓で素晴らしいですな。そろそろ次あたり、理系ギークプリンスがくるんじゃないかと思って身構えてるんですけど。